今回丸一日かけ、焚きつけから鎮火まで×2回。
じっくりと見せて頂き、自分なりの感想を得る事ができました。
自分もドブレ640ユーザーとして、オーソドックスな鋳鉄性ストーブを普段使用する立場・視点から
「モキストーブとはどんな薪ストーブなのか?」を書いていければと思います。
(あくまで個人の独断と偏見に基づく、そして浅学者ゆえの誤った認識も一部あろうかと思いますが、なるべく自分なりの誠実さをもって書く所存ですので、ご理解頂きたいと思います。)
※ 今回の経緯はこちら。
■モキストーブMD80Ⅱ(ノーマル)の焚きつけ。その立ち上がりの速さに驚く。
今回ノーマル状態のMD80Ⅱと愛研の発売するiGブースター機の2パターン焚いていただきましたが、これはノーマルの焚きつけ。
その驚きの立ち上がり速度に驚きました。
細木を数本ならべ、千切った牛乳パックで着火。
炉床が楕円形になっているのが分かると思います。そして奥にある穴の開いたプレートが謎テクノロジーのモキプレート。
構造がシンプルなためか、早々にドラフトが効き始め給気を吸い上げていきます。
火が上がったら薪(今回は中割くらい)を何本か入れます。
開始5分 少し白煙が出ています。
開始10分。なんと早くも天板は200度越え。
※バイメタルの温度計は誤差の個体差が大きいので今回自分のものを持参しました。
面白いほど一気に炎が立ち上がってくれます。この時点で屋外は無煙。
■モキストーブMD80Ⅱ(ノーマル)の本燃焼
十分に温度が上がり、炎も勢いがあります。
ここで、特徴的なのは「エアーが物凄い速さで炉内に入っている」ことです。
そのため炎もゆったりとしたものではなく、ロケットエンジンのように勢いのある炎が噴出しています。
動画はこちら。
非常にワイルドですが、好みの別れるところかもしれません。
しかし、驚きなのは温度。
なんと天板温度は400度を軽く超えています。
ここまで約20分ですよ。
正直、鋳鉄の薪ストーブを使っている身としては想像できない速さです。
というか、鋳鉄製のストーブでこんな短時間にここまで急激な温度変化を与えたら、
まず壊れます。
すぐ壊れなくても炉内の熱酸化を促すことになり寿命を縮めるのはほぼ間違いないでしょう。
モキストーブの立ち上がり速さ、最高温度の高さとともにそれを可能にする本体の堅牢性を感じました。
話によるとこの堅牢性を得る為の本体形状であるとのこと。
正直、「ガラス窓の開口がもう少し大きいといいなぁ」とか「灰受けの開口があれば灰を捨てるのに便利なのに」とは思いましたが、熱による本体の歪みを最小限にするため敢えてこの形状を採用しているようです。
■モキストーブは温かかった、が…。
燃焼中、本体左右面および天板から物凄い熱量が放出されていました。
(意外に前面はそれほどでもありませんでした。)
炉内でしっかりと対流が起き、かつ伝導性の良い鋼板製の本体が高い熱効率を実現し、室内へ熱を取り出しています。
正直、温かいというより暑いレベル。
鋳鉄製ストーブであれば焚き付け時に組む程度の薪量でここまで暖房効果がある。
そしてここまでの到達時間も極めて短い。これはやはり特筆すべき、というか素直に凄いと思います。
ただ難を言えば、ストーブの近くで直接暖に当たるシーンではちょっと熱線が強すぎると言うか、ギラギラした感はあるかも。
好みですが、「熱ければイコール気持ち良いか」というと実際はそうでもなく、主観的なものですからちょっと好みが別れるかもしれません。
それこそ鋳鉄製の重量感のあるストーブが放つ柔らかで気持ちのよい輻射熱がとても魅力だと思っているのですが、ちょっとそれとは趣きが違う気もしました。
(まぁ、これは焚き方とか焚く薪の種類や品質にもよるかもしれませんが。)
とにかく暖房のパワーではなく、その質の話ですね。
もし今後機種選定で迷われる方がいましたらこの辺りも比較してみて気に入る方をチョイスしてもいいかもしれません。
■モキストーブに対する自分の見解をあえて端的にで表現するならば
あえて、ですが一言で表現するならば…
・高いドラフト性能をもつ、熱効率の良いストーブ
そしてそれを実現する為の堅牢性の高い本体と、熱の対流を支えるモキプレートなる部品の存在。ドラフト性能によって生み出される過剰なまでの給気量と給気スピード。またそれによる急激な温度上昇に耐えられる本体。
デメリットとして留意しておくべき点。
・燃焼スピードが非常に速いため、薪の消費は早い。(燃焼効率が悪いわけではない)
・そしてその速い・早い燃焼に伴う炎は、他のストーブと比べるとちょっと違う。
そのため、特に「ゆったりとした炎を眺めたい」という方にとっては少々印象が違うようにうつるかもしれません。
そう考えると、「薪ストーブ」ではあるが、他の薪ストーブとは一線を画す。
そんな気すらしてきます。
昨今の薪ストーブのあり方をそのまま当てはめると上手く理解できない。
もはやモキストーブという一つのジャンルではないかとすら思えてきます。
薪ストーブ、ロケットストーブ、開放型暖炉、そしてモキストーブ。
これくらいの広い心で考えたらどうですか?
少し違った印象もちません?
要は何を大事にするか?薪ストーブに何を求めるか?というシンプルな問題なのかもしれません。
続きはそんな感じのことを書きます。
■「薪ストーブ」に何を求めるか、薪ストーブの本質とは
今回、モキストーブを目の当たりにし、
図らずして「薪ストーブの本質とは?」を深く考えざるを得ませんでした。
そんなストーブでした。
薪ストーブに何を求めるのか、ひいては機種選択において何を考慮するのか、パッと思いつく感じこんなところでしょうか。
- 暖房:限られた燃料(薪)を完全燃焼させるという燃焼効率&得られた熱量をいかに室内に暖房熱として取り出せるかという熱効率。さらに加えるなら速暖性や蓄熱性も入ってくるかと思います。
- 炎を美しく見せる癒しの装置
- 料理
- 少ない薪を長時間燃やす:言い換えればどこまで少ない空気でも燻らせず焚く事ができるか=低出力運転ができるか。
- 木質資源を熱量としてあますことなく活用できる:暖房効率とかぶりますが、燃焼効率のことですね。
- 排気のクリーンさ:これも言い換えれば燃焼効率ということですね。
- インテリア性(デザイン)
- 本体の丈夫さ
- メンテナンス性:日頃のお掃除から、数年毎のメンテナンスまで
まぁいろいろあります。内容的にかぶっている項目もありますし、細かいこと言えばもっと挙がるかもしれません。
ただ、薪ストーブの存在意義が一義的には「暖房」であることは恐らく言うまでもないでしょう。
したがって部屋が暖かくなるのはマストです。
ただ、最近は暖房と言う最も基本的な機能だけには留まらず、例えば「炎を美しく見せる」など、付加価値的機能が重視される傾向があります。
各社のラインナップもガラス窓を大きくしたりするなど薪ストーブに様々な価値をもたせようと努力がみられますし、販売店においても「炎に癒される」そのようなセールストークが当たり前のように行われています。
ただ、全てがパーフェクトな物は存在しません。
要素として両立できる物もありますが、中にはトレードオフの関係にならざるを得ない物もあります。そこをどうバランスを取って製品としてまとめあげるか、それが設計であり、そのメーカーの考え方・思想と言えるでしょう。
そういう意味で考えると、モキストーブは非常にユニークだと感じました。
「薪ストーブの本質は暖房である」
(もしくは木質燃料を効率的に燃やし熱を取り出す装置である)
ここに対して、恐らくかたくなにブレていない。
実際、鋳鉄製ストーブであれば焚きつけ時に組むような薪量で物凄い熱量を室内に放出していました。
あったかいというより、暑いレベル。
上述したように、これは素晴らしい熱効率です。
ただし、その代わり燃焼は物凄い速い炎ですし、レーシングマシンのエンジンのような感じです。
全力で燃やせばあっという間に薪は燃え尽きます。
もう一度言いますが、色んな本質があるなかで「どこを取るか」です。
「どこを重視した、どういった所を得意とするストーブなのか」がその機種の特徴であり、理解する必要があります。
選ぶ側はそれを主体的に理解する姿勢が必要でしょうし、売る側もしっかりメリットたるべき所を訴求しつつ、後々ユーザーが「なんか思ってたのと違った」と思わないような説明をすべきでしょう。と思います。
■ストーブの特徴~ドブレ640と比較して
ということで、この話の流れですし、折角なので敢えて、うちのドブレ640と比較してみましょう。
まったく特徴が異なるのが分かりますよ。
(個人の独断と偏見に基づきますのでそこはご容赦ください。)
項目 | MOKI MD80Ⅱ ※ノーマル機 |
ドブレ640CB | 備考 | |
暖房 | 燃焼効率(排気のクリーンさ) | ★★★★★ | ★★★★ | その機種の想定した巡航温度であればどちらも無煙だが、より高温燃焼を実現しているモキにやや軍配か。 |
ドラフト(上昇気流の起き易さ) | ★★★★★ | ★★★★ | ドブレ640もシンプルな構造だが、モキは更にシンプルかつ排気抵抗の少ない構造。 | |
熱効率(室内への熱の取り出し) | ★★★★★ | ★★★ | 鋼板製のモキに明らかに軍配が上がります。 | |
速暖性 | ★★★★★ | ★★ | 鋳鉄製640ではあるが、更に大型で温まりにくい機種も存在する為★2つ | |
蓄熱性(暖房の持続性) | ★ | ★★★★ | ★5があるとすればソープストーン製か、740やVC社デファイアントのような大型機種 | |
炎を美しく見ミせる | 豪快な炎 | ★★★★ | ★★★★★ | どちらも豪快な炎が見えるが、モキはガラス窓が小さく本体奥行きがあるため炎が薪に隠れてしまうことがある |
ゆったりした炎の揺らぎ、薄い炎 | ★★ | ★★★★ | ★5があるとすればネスターマーチンでしょうか | |
ガラス窓の大きさ、曇にくさ | ★ | ★★★★★ | モキはガラス窓が小さく、かつ曇りやすいのが難点。※iGブースター機は大分改善されています。 | |
料理 | 天板 | ★★★★★ | ★★ | モキの天板温度は400度を軽く越す、ドブレ640は250度前後 |
炉内 | ★★★ | ★★★★ | モキは開口狭く鍋の投入にやや難あり、炉内の保温性もやや劣る、ドブレ640は天井のアーチ形状が使用できる鍋の高さ制限につながっている | |
少ない薪を長時間燃やす | ★ | ★★★ | ★5つがあるとすれば最近流行の高気密&小型機。触媒機を★4つと想定しました。 | |
排気のクリーンさ | ★★★★★ | ★★★★ | 上とかぶりますが、一応別項目にしておきます。 | |
インテリア性 | ★★ | ★★★★★ | ここは好みですがモキは本体の堅牢性を優先しデザイン性を犠牲にしている所が残念です。 | |
メンテナンス性 | ★★★★★ | ★★★★★ | ドブレ640は各種パーツが取外しできメンテナンス性に優れます。モキはそもそも部品点数自体が少ない。 |
※★2つ差がある場合を赤字としました。
どうでしょうか。ちょっと乱暴?
ただ、「機種によって特徴が異なる」ということはお分かり頂けたかと思います。
どこを取るか、です。
※ 続編でiGブースターを装着したモキMD80Ⅱのことも記事にしますが、それはまた少し燃焼の味つけが変わるのでちょっと違う評価になります。
■なぜこんな特徴的なストーブになったのか
これは薪ストーブ愛好者であれば自然な疑問だと思います。
おそらく一つの要素としては、成り立ち(背景)のユニークさが挙げられるでしょう。
現在の薪ストーブの主流たる製品は、元々は暖炉から歴史が始まっているわけです。
開放型暖炉から密閉型の薪ストーブへ。
これはいわゆるフランクリン型ストーブの登場によって技術革新が始まり現在の形につながっていくわけですが、それは以前このような記事を書きました。
その点において、モキ社はちょっと独特というか面白い側面があるのですが、元々このモキ製作所は「焼却炉」の製造を強みとしているメーカーなのです。
そうです。焼却炉を作ってきたノウハウを生かして薪ストーブを作ったわけです。
もちろん鉄板で熱を閉じ込めるというフランクリンストーブの思想は引き継がれてはいるのですが、モキ社の手がけてきた製品群を見る感じ、モキストーブはある意味「焼却炉から発展したストーブ」とも言えるでしょう。
そのためか、「より効率的に、かつクリーン(高温)で燃焼させる」という点が重視されているように感じます。
ただ、燃焼させるだけではストーブにはなりませんので、そこにモキ社の言う「モキプレート」が熱の対流効果を生み、鋼板によるシンプルな構造も相まって圧倒的な熱効率を稼ぎだしているように感じます。
■謎パーツ。モキプレートとは何か、その燃焼の秘密は
これはどこまで書いていいのか分かりませんが、モキプレートとはつまりるところ穴の開いた2枚のステンレスプレートです。これは本体の奥に取り付けられています。
技術的なことについても当日は愛研大屋さんとじっくり話し合いましたが…ここは割愛します。笑
ただ、このプレートの存在によって炉内のエアーの流れ&熱の対流(滞留)が起き、炉内での完全燃焼(クリーンバーン機で言うところの2次燃焼)や熱の回収につながっているように感じます。
シンプルな形状が故にデメリットとなるような排気抵抗を生み出していないのもポイントでしょうか。実際に燃焼を見ていると、エアーの流れの速さがびっくりするほど速いです。
ただ、一方では奥長の本体形状ゆえか炉内の温度ムラも気になりました。
物凄い高温となる奥に比べ手前側の温度が低く、エアーも行き届いていないようでガラス窓の曇りが発生しやすいようでした。
(実際焚いているとガラス窓は煤けていきましたが、これはどの程度ガンガン焚くかによっても違うでしょうね)
■そろそろまとめ、モキストーブはどんな方におすすめか
個人の独断と偏見でズバリ書かせて頂きます。
ズバリ、ゆったりとした炎の揺らぎを楽しみたい方にはおすすめしません。
その代わり、「暖房器具」としての本質を最重視する方にはとてもメリットのある製品です。
「少ない燃料を無駄なく燃やして、室内の暖かさとして取り出す。」
これについてはかなり抜群の性能だと思いました。
なので、 繰り返しになりますが
「自分が薪ストーブに何を求めるか」
をよく考え、機種選択をされることをおすすめします。
※ 以上。あくまで個人の感想として書かせて頂きました。
モキストーブについてがネット上の情報があまりに少ないという状況でもありますので、今後、当該機種を検討される方にとって少しでも参考になればと思います。
次回は、愛研さん独自に販売されているモキストーブのオプション「iGブースター機」について書きたいと思います。
(内容まとまってませんが、こんな感じで。しかしながら今回珍しく6000文字オーバーですよ、しかも字ばっかり。さすがに疲れました。笑)